2013/10/28
SONY WV-D9000 ビデオデッキの修理
SONYのDV/S-VHS Wビデオデッキ・WV-D9000の修理記録です。
何かのテープが入ったままでEJECTされなくなってしまったビデオデッキ。
「このままでは不安で捨てるに捨てられない」と、知り合いからジャンク処理を相談されました。
レンタルAV見てたらデッキが壊れて真っ青、、みたいな、大昔の笑い話みたい。
機種を聞いたらソニーのDVとS-VHSのWデッキ。結構良い機械ではないですか!。
同型機は5~6年前にジャンクを含め何台か修理した経験があり、今回の不良部分も大方見当がついてます。
テープが取り出せたら本体は遊んでも構わないとの事なので、暇つぶし&気分転換の為にお引き受けしました。

当時はそれなりの人気機種。思い入れのある方も多いのか、時折ハードオフで見かけても次に行くともう誰かに買われてたりします。しかし軽く検索しても突っ込んだ修理実践記事は見当たらず。
この際ですから修理の備忘録も起しておきます。
※この機種用のメンテマニュアルは見たことないので100%の責任は持てませんが、いつか修理・レストアされる方の参考にでもなれば幸です。
■以下が本機の不具合。以前弄ったジャンクとそっくりな症状。
・数年前にDVは動作不良。DV関連のボタンが効かなくなって今はテープを差し込んでも受け付けない。
・コンセントを抜いた時点で時計がリセットされてしまう。
・VHSは数年前まで使えた。今秋、入れっぱなしのテープをEJECTしようとしたらモータ音だけでメカは動かない。
(写真は過去に同型を修理した際のメモ撮りと今回の修理で撮影した物を混ぜて使っています。)
■VHSのメカを外します。
初めてこの機種を弄った時は「こんなにメンテがやり辛い訳がないよなあ」と思いつつ全部バラバラにしました。その後、メカを取り出すだけならリアパネルを外して一番下の基板をシャーシから分離する必要はなく、メンテしやすい構造になっている事に気付きました。
●最初に本体を裏返してメカを固定しているビス4本を外す(赤円:3本がタッピング/1本だけM3)。
(黄色の円内(左右各1本)は次、フロントパネル関連。)

●カバーを外し、フロントパネルを固定している5本のビスを外す(黄円)。


●フロントパネルの爪(左右&底部)を起し、フロントAssyを外す。
S-VHS cassette detect SWのコネクタを抜く(緑円)。フロントAssyと基板の接続はそのままで可。

●メカを固定しているビス3本、結露センサーも外す(丸頭短いタッピング)。


●ヘッドアンプのフレキコネクターを外す。

●メカとヘッドアンプの接触(GND)を担っているシールド板みたいな金物を外す。
※ビス3本/うち1本はメカの固定も兼ねています。

●全幅消去ヘッド、CTL&長手オーディオヘッドのコネクタを外す。
※全幅消去(黒)の方はヘッドとコネクタが一体なので固い=抜き辛い。


(すでにテープを回収した後の写真を使ってしまいましたが)以上でメカと基板は幾つかのコネクタで繋がっているだけの状態になりますので、正面側から基板を底板方向に押さえつつ、反対の手でデッキを引き上げれば分離できます。

●固定箇所がまだ残っているような感触の際は裏返してヤマトの第三艦橋みたいな所のフタを外し、黄色の円内あたりにビスが無いか確認。
この部分は固定されていないはずですが(過去、数台弄った際も「うぶ」な状態ではメカ側のポストにタップ痕は無かった)、誰か(メーカー以外)が分解/再組み立て時に間違えてネジを入れてしまう可能性はあり。)

●下の写真。元に戻す際に矢印のコネクタが外れやすく、気付かずにいると修理が完了しているのに動作不良に悩まされます。DVには影響が出ず、VHSを再生すると数秒でテープが止まる、VHSデッキをボタンで選択しても状態が勝手に暴れるなどなど、、。
また上下シールドケースの噛合(コネクタの両サイド)が外れたままビス止めしてしまうと下側のケースが本体基板に接触し、運が悪ければ何かが燃えるかも。
(コネクタのリード線に余裕が無いので収めるのにやや苦労します。このデッキで一番弄り辛い部分。)

■DV部制御不良の修理 (基板上)
今回の目的はテープ回収で本体の修理はどうでも良いようですが、(趣味として)修理もしました。
DVデッキ側にも動作不良があるので基板を点検。
表面実装のケミコンが嫌と言うほど目に入りますが年代的に例の「極悪電解液」とは違うのでさほど心配する必要は無いと思います。それより・・・。
●クロック&メモリーバックアップ用のスーパーキャパシタ周辺を確認。


●基板の裏側を見るためにはリアパネルを外し基板を取り出す必要がありますが、裏にも液が。汚ねー!。

●過去に何台か弄った同型機でも逝っている物がほとんどで、これはもう迷わず除去。
除去したままでは停電補償が効かなくなるだけですが、残しておくと抵抗値を持って死んでる場合もあり、それが原因なのかDV系の制御が効かなくなるようです。
パターンを侵食している場合は当然修復が必要=ほとんどの場合、これで操作できなかったDV側が復活します。
※C828も基板を掃除する為に外して交換。

●パターン侵食部分に半田を盛って修復する手もありますが、細かくて億劫になりジャンパー線を飛ばしました。

スーパーキャパシタは手持ちの物を入れました。容量は近似値で構わないと思います。
下は何年か前に修理したDSR-30(民生版だとDHR-1000ですね)の基板です。スーパーキャパシタは逝ってます。
(内緒の話?業務機DSR-30の動作不良も同じような手入れで復活する可能性が高いです。)

■VHSテープの回収
(写真は既にテープを回収した後のメカを写しています)
手にグリスが付着するのを覚悟してメカを裏返し。今回は現象がはっきりしていますので不良箇所の修復は後回し。
●ローディングモーターAssyを外してしまう方法もありますが今回は上品な方法?でテープを回収します。
(業務、放送機器では手動でアンロードさせるノブが存在する事もありますが、家庭用の場合は無し。)

●ウォームギアの末端とローディングモーター軸に圧入されたカムの噛合い部辺りにドライバーの先などを引っ掛けるようにしてウォームギアを少しずつ回転させます(黄色矢印方向)。

●下が全体的なイメージです。黄色矢印方向にウォームギアを回すと次のギアがオレンジ矢印方向に回ります。ピンチローラーが上がり、ローディングポストがカセット側に移動を始めるまでクリクリ回す。
●ローディングポストが動き始めたらリールモーターのプーリーを反時計方向に回して(ピンク矢印)弛み始めたテープをカセットに収めて行きます。上手にやればテープへのダメージは最小限にとどめられるはずです(今回はほぼ無傷)。

●ウォームギアの回転を続ければやがてカセコンが上昇を始め、ある時ポンとカセットが取り出せます。
・ウォームギアの手回し終了位置(位相)はメカの窓部指針位置に【E】が来た所です。

■VHSメカ・ローディングモーターの修理
このメカでは一つのローディングモーターがカセコンの移動(上下)、テープローディング、各ファンクション(再生・停止・巻戻・早送・・・)へのフォーメーション移行を担っています。忙しい上にそれなりのトルクがかかる時もありそうですが、そのモーターの軸に圧入されているのは、ウォームギアの端と噛合うジュラコン製のカムみたいなパーツ。
コレが経年劣化?なのか軸方向にクラックが入って緩くなり、結果モーターのシャフトが空回り。
接着したり溶着した程度ではすぐに再発しそうな感じです。
レトロなデッキですし、ここはメーカーに頼らずに5年前と同じ方法で直す事にしましょう。

●コクドベルトを外し、ローディングモーターAssyを外します(ビス4本)。
特に【ビョ~ンする部品】(←分解中にぶっ飛んで、あたふたして部屋中を探す。良くありがちな事)はありませんが、カム構造で連携している部分があるので丁寧に外した方が賢明です。

●ナイロンCリングを外してギアを外し、ビス2本で固定されているモーターを外します。


●ジュラコンの首部分は最大で径6mm+。ここにスリーブを被せてヒビが広がらないようにします。


●タイロックで単に締め上げる、玩具のエアガンのバレル(内径6mmチョイ)をスリーブに利用、、など幾つかの案を考えた結果、辿り着いたのは6mmシャフトのVRやロータリースイッチ用の単なるツマミ。
ローレットスリーブではなく、横からビスで締め付けるタイプのつまみの一部を利用しました。
もったいないけど、ニッパーで壊して真鍮部分だけ利用。

●念のためイモネジがクラックを押す位置に挿入。ピッタリ。
但し真鍮部分が若干高くなるのでジュラコンパーツの末端とツライチになるようヤスリで修正。

●モーターのシャフトに差し込んでイモネジで固定。
(この後、イモネジがフレームに当たるので余分な部分をリューターで削り、スクリューロックを塗布)

■ロータリーエンコーダーの掃除
いろいろと呼び名があるようですが、メカ位相を回転角からシスコンに伝える例の部品です。
コンタクトが曇って接触が怪しくなると途端にシスコンが訳解らん状態に陥るアレですが、丁度ローディングモーターAssyに含まれていますのでこの際ですからメンテしておきましょう。
●ナイロンのEリングをはずし、ギアを取り除けば現れます。

●裏側で塗布されたスクリューロックをピンセットの先などで除去後、黄色い矢印部分に細いドライバーを入れ、黒い方(ベース部分)を緑の矢印方向に回す。

●分解後、接点をクリーニング。アルコールと綿棒で擦るだけで十分。その後、接点グリスを塗布して終わり。
接点グリスの目的の一つは接点が外気に晒されて酸化皮膜が発生し接触不良を起こすのを防ぐ為ですが、過去、接点グリスの代わりにシリコンオイルや復活剤などを試したものの短時間でダメになりました。接点洗浄後、全く使わないともっとダメダメ。すぐに再び分解する羽目になります。

●取り外し時と逆の手順でフレームに組み付け後、裏側にスクリューロックを塗布。

■ローディングモーターAssyの再組み付け
当然ですが歯車(ギア)の歯一つの誤差(組み間違え)も許されません。
しかしエンジンなどと同様、部品一つ一つに組み付け時用のガイドとなる物が設けられています。
●モーターとウォームギアをフレームにセットしてビス止め。
●ロータリーエンコーダーの突起がギアの穴に入るようにセット。

●各ギアの穴とフレームの穴が一致する位置にセット。

●最後のギアは機能的な決め位置はありませんが、4つある穴のうちのいずれかがフレーム&一番大きいギアの穴と重なる位置に(緑の円)。
また黄色い矢印部分の裏側、窓に【E】が出ていることを確認して二枚のギアをEリング、Cリングで固定。
●紫色の円内はリールモーターのブレーキです。念のため、汚れや傷みを確認。


●ちなみに、一番大きいギアの裏側。
再生、早送り、巻き戻し、、、各ファンクション時に窓に現れる文字が見えます。

これでローディングモーターAssyの修理も完了。
■ローディングモーターAssyの組み戻し
●分解した際にローディングポスト関連の部品が浮いてしまう事がありました。
ギア部分が上方に反り返る形で浮き上がった場合、ドライバーの先で連動するポスト(カム)を定位置に戻します。
下の写真、赤円内の位置に戻せは反り返りが収まり、末端がガイドに落ち着くはずです(緑円)。

●なぜドライバーを置いて撮ったのか忘れてしまいました、、、。
星印あたりを上から指で押さえ、赤矢印方向に動かすとローディングポストが移動するはずです。
さほど大きな力は必要無く、引っかかる感じも無い事を確認。

●組み戻しの為、メカの位相を取ります。
・例によってフレームとギアの穴を揃える。
・白い方も矢印方向に押し、ローディングポストをアンローディング位置に。

●ローディングモーターAssyを収める。
ローディングモーターAssyの位相が取れていることを確認して元の位置へ。
何事も無く、ストンと定位置に落ちてくれれば楽なのですが、若干浮くような感じになります。
主に赤円で示した2箇所がその原因ですが、写真で上の円内はドライバーで軽く上に吊り上げ、下の方は指で上下に動かせば4箇所あるAssyの固定部分が浮く事無く、フレームに接すると思います。ここでビス止め。
※わずかに浮いたまま無理にビスを締めてしまうと間違いなくメカは脱調します。


●コクドベルトを戻し、メインのフレーム1箇所(リールモーターの下)、ローディングモーターAssyに2箇所、位相合わせの穴に細いドライバーを挿し、それが通る事(位相が取れている事)を確認してVHSメカのメンテナンスは終わり。

某オクなどでカセットデッキやビデオデッキのメンテにグリスアップをアピールしているのを見かけますが、私のようなド素人の考えでは、余程乾いていない限り、使い込まれ適度に油分が回り込んだ上にさらに塗りこむ必要は無いと思います。
模型用途のプラ用グリスなどはプラを侵さない事は保証されているとしても、デッキメーカー指定のグリスより揮発の早い物もあり、機械内で蒸発分がテープパスに付着する可能性も否定できません。未洗浄のままでは成分が混ざり合うわけですし。
■VHSメカを本体に組み戻し
●確かこの機種は電源のON/OFFに関わらず、温度(当然センサーは機械の内部)によって勝手にファンが回ったと思います。真夏、電源は切れているのにぶ~んと来たような…。
過去にジャンクで手に入れた物の中には喫煙環境で使われたような物があり、カバーにスリットがない割りに結構ヤニを吸い込んでいるなあと感じました。
今回の個体は綺麗な方。念のため、メカを戻す前に基板側のフォトインタラプタとLED、メカ裏側にある導光部を綿棒で軽く拭っておきました。


●メカの組み戻しは落ち着く場所が一箇所しかありませんし、その位置に収めれば自然とメカ下部と基板のコネクタが噛合います。
※DVデッキ部から延びているプラ製部品の下にカセコンのエッジが収まります。

あとは分解時と逆の手順。
個人的についうっかりして「あれっ?」と思ってしまうのが結露センサー、ヘッドのフレキコネクタあたり。
メカ~ヘッドアンプのシールド~金具のビス止め部分。ヘッドアンプの固定穴部分がよくひん曲がる。メカの下に敷くか上にするか戸惑うかもしれません。どっちにタップが立っているのかを見れば答はおのずと。
■視聴・松竹1974年11月封切「ふれあい」
詰まっていたテープは人の物なのでそのまま返却の準備。
適当なテープでロード/アンロードのテストをしてから別のテープで再生テスト。
中村雅俊さんと壇ふみさん主演の松竹映画「ふれあい」。BDは勿論VHSもDVDも発売になっていない幻の邦画。
10年以上前、地上波でオンエアしたのを録画したものです。この話は別記事に書きましょう。

デッキの動きは問題ないようです。
民生機なので少なからずF特性を弄っている(高域を上げてエッジを立てている)のと、DNR/ON:MAXでは残像を感じるものの、ノイズレベルは安物のデッキより全然低いです。
コンデジごときのAVCHD動画でもつい見比べてしまうと悲しくなりますが、まあ低域変換のアナログ記録ですからこんなもんでしょう。DVの方は流石に今に近い画質です(SDですが)。
●下の写真はモニターのH/V DELAYを使ってビデオ信号の同期部分を見ています。
横に走る細い黒が垂直同期。縦1本の太い黒が各ラインの水平同期の集まりで、沈んだ黄色の帯はカラーバーストです。
TBCを入れると同期、カラーバースト部分が補正され綺麗になっています。結果、画面の揺らぎが抑えられ安定した映像が得られるという訳ですが、TBCにも方式があり、家庭用機器のそれに過度な期待を寄せるのはヤボですね。
コピーガード信号は削除される事なくスルーですが、倫理観か確立された時代のWデッキですから当然でしょう。


■追記
●過去、DVデッキ側の不調を修理した事はありません。
ただDSR-30でブレーキが破断し高価なDV-CAMのテープがグシャグシャになった際、ジャンクのWV-D9000のDVデッキからブレーキを拝借して修理したのを覚えています。
WV-D9000/7000のDVデッキとDSR-30/DSR-20のDVデッキはほとんど同じでした。ファームなどは異なるにせよ、ジャンク修理において機構部品単位での遣り取りは可能だと思います。


●友人が町のリサイクル屋で見つけてきたWV-D9000は電源不良でウンともスンとも言わない物でした。確かアルミのヒートシンク周辺にある小さなケミコンの一つがドライアップ。電源とGND間に置かれる所謂パスコン程度の役目ではなく、安定化回路のループ中に置かれたコンデンサみたいで容量ゼロ=AC的な結合が絶たれ回路が機能せず電圧が出なくなっていたと思います。
おわり。