2018/11/24
Tektronix 453 early model オシロスコープの修理【2】
Tektronix type 453 early(S No.<2000) 50MHz dual-trace oscilloscopeジャンク購入のテクトロ年代物オシロ・修理メモ【2】
電源投入前の観察を午前中に済ませ、午後は窓を開け(万一コンデンサが燃えると臭い)、それなりの覚悟を持って電源を入れてみました。
当然のことながら不具合アリで正常動作せず。
ネットで回路図の入ったマニュアルを拾い、午前中に見つけた劣化部品の検証から始め、部分的な動作チェックを実施してみました。
■動作確認
電源入れても画面は沈黙。

普段使いのオシロがTek 2445Bとkenwoodの年代物40MHz、いずれも古いアナロ機なので使い方に大きな違いは無いハズなんですが、他人の自動車を運転するようなぎこちなさに襲われ、入力から順番に考えながらツマミを捻る。
普通はこの辺で輝線が出てフォーカス取ったりするよなぁという所まで来ても何も映らない。
アンキャル、トリガーなどのパイロットランプが都度点灯するのは救い。
低圧電源側の回路はきちんと動いているような気がするんだけど。
そしてその結果が怖く最後に残しておいたTRACE FINDER を押す。変化なし。えッ~。
落胆方向にドキッ
波形で心境を表現するとフォーリングエッジ
日本語では立ち下がりエッジ(この言葉は嫌い)
厳しい現実を突き付けられたのかも知れません。コレを押して反応しない場合、高圧トランス(フライバックコイル)やCRT、すなわち高価な主要部品の故障・寿命と判断されることも有り得る訳で、予算のある研究室なら装置入れ替えの理由に十分。
もちろん100%そうだとは言い切れませんが、つい嫌な事を考えてしまいます。
コイル焼き切れてるのかな?ヒーター断線かな?。
CRTの首はほんのり温かいような気もするけど、シールドで中が見えない。
電源を落として頭を冷やす。
■マニュアル取得
リペア情報を検索。残念ながら国内のOMの経験談は見当たらず。英語圏では幾つかヒット。この手のインストルメンツは素人が触ると高圧あっからヤベーヨから始まり、修理のセオリー、PDFより紙のマニュアル用意しろ、特異あるいは現在では希少な部品のウンチク(耳年寄りの横槍)、サプライヤーへのリンク…。
外人だから英語だからと、それだけでそれなりのスキルがあっての発言だと闇雲に信じるのは危険。
壊れてる→ケミコン全とっ換え→アレレまだダメとか、どこの国にもいらっしゃいます。
向うの掲示板には垂直入力の初段をFETで作り変えたり、ロシアのパーツを使って修理された方の記述もあるようですが、ニュービスタもトンネルダイオード(日本人なら江崎ダイオードと呼びたい)も無条件交換が必要な程の短命・脆弱な部品ではなかったような気がします。
※それよりも夏の終わりにレストアした70年代のヤマハのアンプに入っていた2SC-458LG-C。
それまではネット上の情報を半信半疑で聞き流していましたが実際に向き合うと、もうフザケンナみたいな感じ。
マイグレーションとやらで(倉田まり子のデビュー曲?)、1500円のLCRメーターでは具合が読めませんでした。
壊れたからと言って同年代の抜き取り品と交換するのは危険。信号が通ったとしても性能を取り戻せていない可能性があります。
機会があれば半パラ(半導体パラメータアナライザ)とオーディオアナライザ(大穴?)で検証します。
話戻って
型番+PDFで検索、調整手順や回路図が掲載されたサービルマニュアル(今回はインストラクションマニュアルと記されていた)が手に入ったので先に進みます(OCRを通していないPDFなのでコピペで和訳は不可)。

テクトロやHPのマニュアルには調整方法、回路図、部品のマウントなどが普通に掲載されているので効率的に作業を進められます。が、これだけの情報が得られた以上、それでも故障箇所の特定ができない場合は本人のスキル不足という事になってしまいます。
教科書ガイドを全教科分揃えたのに追試とか、カコワルイ。
(修理を終えられるかについては部品入手などの問題を解決する必要があるので別の次元)
■問題の切り分けと検証
諦めるにはまだ早い気がするので、まずは午前の部で見つけた劣化部品を探ってみます。
●リア部分のラグ板に載ったケミコンを回路図で探す。

粉吹きコンがC937、その上にあるヒューズがF937。
繋がっているのはCRT駆動に必要な高圧を得るための昇圧回路(いわゆるデコデコ)の電源ラインじゃん。供給源は低圧電源部のアンレギュ(レギュレター前の整流~平滑コンデンサ部分)。これは容量ゼロでもメインの平滑コンが活きていれば、まあ大丈夫なハズ。
容量抜け切りで要交換には間違いないでしょうが、故障の原因では無いと思います。
ということでとりあえず放置。
ちなみにヒューズ(F937)は昇圧回路の保安用。コレが切れると高圧が飛ばない(高圧が出ない)。現状は健全。

●低圧側のレギュレター基板上のケミコン
電源基板にも劣化したケミコンがありました。

マニュアルに電源部のテストポイントが記されているので現状のまま測定。
それらしい電圧が出ているのでここも放置。
(マルチメーターの校正期限が切れている事に気付きました)
パイロットランプ類の点灯具合を見る限り、トリガーが掛りスイープがスタートしているような感触は得られているので今すぐに電源を弄る必要は無いと判断。ケミコン劣化でリップルが増加、その影響として画面が泳いだり、トリガーレベルが揺れるとしても画が全く出ない事には繋がらないはず。

●Z軸の焦げた抵抗

回路図を見るとインサーキットのまま測れそう(冷静に考えたらこの機械は真空管と半導体は全てソケット実装。CB間/CE間短絡時の影響を考慮しなければならないのならトランジスタ(Q1043)を抜いて測れば良いだけ)。
テスター読みで約50Ω。半燃え?半萌え?。
ソリッド抵抗も燃えれば無限大になるはず。抵抗値が低下しているのは燃え切れる前だから?。
100Ωが50Ωに変化したから動かないという訳では無いはず。
やや乱暴ですが抵抗値が残っているので放置して先に進む事にします。
一時間程度電源を入れても現在はこの焦げた抵抗が熱くならない。
ココ、今は電流が流れてるのかな?。
※ネタバレになりますが、この直感が今回の修理のターニングポイントでした。

以上で午前中に内部を観察して気付いた部分の検証は終わり。
●垂直アンプ・スイープゲートの確認
サイドパネルにあるCH1-OUTとA/Bスイープのゲート出力を使って各部の動作確認。

この辺は健全な気もするが、ここで確認をしておけば先々悩んで逆戻りする事もなくなると思い、午後のスナック(鯛焼あられ)を頬張りながら簡単にチェック。
袋が邪魔ですが1KHzのCAL出力をCH-1に結び、サイドパネルCH-1-OUTの波形を見ます。
※フロントパネル内、CH-1入力コネクタの右上にあるVertical modeと同軸のtriggerセレクタ(内側の赤ツマミ)をNORMに入れないと信号が出て来ない(サイドパネルのコネクタ下に注意書き有)。

CH-1アンプ、動作していました。
CH-1入力からアッテネーターを通ったCALの矩形波が50年以上前の真空管とトランジスタで増幅された波形です。
ATTを回せば振幅が変化=おそらく正常。
それにしても古い機械なのにCALの周波数が実にそれらしい値になっています。
(測っている方のリードアウトも未校正なので単なる目安)


A/B GATE
トリガーによって開始される一掃引期間(X軸左始点から右終点までの一描画期間)を示す信号だったと思います。すなわちスイープに同期した矩形波のようですが、波形が出ているという事はすなわちトリガーが掛かってスイープが走っているという事だと思います。
この矩形波のエッジを始点に一定間隔でCH-1 OUTをキャプチャ(サンプリング)すればデジタルオシロが作れますね。


ここまで来るとある程度の問題切り分けが叶います。
まだ予想の範囲を出ませんが、CH-1の垂直アンプ、トリガー、A/Bスイープは正常。
やはり問題は高圧を含む表示制御・駆動部分、すなわちCRT(ブラウン管)に近いところ?。
この辺は古い測定器の購入を諦める(諦めさせる)ための言い訳にも利用される部分ですね(ブラウン管が逝ってると手に入らない、高圧が壊れていると修理に手間が掛かる…)。
●高圧(CRT駆動部分)の確認
さきほどの確認通り、現状では TRACE FINDER(ビームファインダー)を押しても輝線は現れません。嫌な予感的中でCRTがいかれているのか、または高圧が飛んでないのか。
ちなみに、HPの141Tにスペアナプラグインだとボタンを押しても機能が無いので輝線は出ないのが正常(アレはオシロプラグイン専用)。

高圧のテストはカバーを開けての作業になりますが、あまり触りたくない部分。
何とか管面に影のようなものだけでも映ってくれればと願いつつ、やや乱暴ですがTRACE FINDERを押したまま電源をON/OFFしてみました。
するとONからOFFへ落した際、ほんの瞬間だけ輝線が現れます。
(下の写真は動画から切り出した静止画です)

CRT壊れていない。高圧も壊れていない。この機械、多分直せる。
直せなかった言い訳を探したり、カバーをそっ閉じして仕舞い込まずに済みそうです。
修理は夕食後としました。