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プローブスタイルのガイガーカウンターとケーブル容量

4月の下旬、VICTOREEN V-700 のマニュアル・回路図をネットで入手し、プリントアウトして風呂上りや仕事の合間に眺めていました(今となっては年代モノの回路ですが、そのシンプルさはまるで当時のA1送信機なみ?)。

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電源部や出力回路はそれなりに予想していたのですが、
一つだけ気にかかったのはアノード抵抗が1MΩと、それまで私が入手できたどのGM管よりも低い設定になっている事です。

なんとなく、まあ、6993というGM管の仕様なのか、とも思いつつ、 ある日オークションで(手の届かない金額に達していた) V-700 の実物写真を見て、プローブと本体を結ぶケーブルが細くて長い事にも気付きました。

そして5月半ば過ぎ、運良く V-700 のGM管とケーブル付きハウジングだけを入手することが叶い、その質感と堅牢な構造にちょっと感動(物欲だけクレクレタコラの食い散らかしにならぬよう己を戒めています)。
6993というGM管は動作電圧が900Vと高めですが、これは SBM-20 などの電源を倍電圧整流すれば済む訳で、ならばさほど苦労せずにプローブ式のガイガーカウンターも作れるなと胸を躍らせました。

では、その前に、気にかかっていた事を検証しておかなければなりません。
これはまた、6993に限らず、 SBM-20、J-408、SI-1G などでも同様で、GM管を使った装置を自作する際に頭に留めておくべきパラメーターの一つだと思います。

まずは V-700 の回路図通りアノード抵抗を1MΩ(実際には1.1MΩでの実験ですね)にして、
但しハウジングは使わず、回路と管の接続は短い電線にミノ虫クリップを付けた物で行いました。
(ここでは1MΩ+100KΩですが、先日のブログの通りアノード抵抗の変化により充電時間が変化します。)

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案の定、回路図には記載されていないもう一つの重要なパラメーターが残っていたのです。

VICTOREEN V-700 はプローブ式(GM管分離外装式)のサーベイメーターですが、プローブ(GM管を収めるハウジング)は濃厚な金属製で操作時はオペレーターの手(身体)に触れます。
微弱ですが高圧回路が含まれており、かつGM管からの反応出力も比較的ハイインピーダンスですので、人の身体に触れる部分は接地(GND)が基本でしょう。V-700 のプローブ(ハウジング)もGNDに接続されています。
このことからGM管のカソードはそのままGNDに接地されており、出力検出にはオシロの波形のようにアノード側に現れる負の方向への電圧変化を検出する回路となっています。

そのGM管のアノードは繊維入りの強靭なシールド線で本体の回路に結ばれています。

それが何を意味するかという事は、以下の写真がズバリです。

20110607_002.jpg


↑ 全体的な波形の立ち上がり状態をご覧下さい。
シールド線の容量がモロに効いて、アノード抵抗を増加したような曲線に変化しています。

(6月1日にアップしました拙稿中、上から3枚目の写真(R anode=5.7MΩ)に似た曲線ですね。)

またシールド線の容量がGM管の放電容量を上回っている為、GND方向へ落ちた検出パルスが底上げされ、落ちきる前に上昇を始めています。

(底部の波形の乱れ(お尻マーク?)はケーブル容量起因によるものでは無いと思います。
ケーブル不使用時にも観測されることがあり、波高もその時によって変ります。今回の実験は6月1日の時よりも線源を近づけていた為、もしかするとこの辺がクエンチング動作に関する波形なのかもしれません。)

GM管の稼動時容量は計測できませんが、単に容量計を繋いだ場合、1pF未満でした。
それに対し、ハウジング一式の容量はご覧の通りです↓。


20110607_003.jpg


これらが何を意味し、何に影響するかということです。

●実際の実装において、アノード抵抗に加えGM管と(場合によっては)その負荷となる容量にも気をつけなければ、電圧の回復時間の変化により最大CPM数はもとよりBG、俗に言う感度も変ってくるという事ではないでしょうか。
(某1989年発売のキットには 「GM管に到達した放射線はほぼ100%検出される~」とありますが、直前の検出後、電圧が回復していないとGM管は動作できず、放射線を検出できません。)

●上記2つのパラメーターはGM管へ電圧を加えるタイミングそのものです(ゆっくり加えるか、急峻に加えるか)。これがGM管のストレスに影響するとすれば、長期安定使用に相応しい充電曲線はどちらなのでしょうか?。

●GM管のデッドタイムについて、まだ正確な定義を掴んでいないので断言できませんが、充電曲線がそれに関与しているとすれば、やはり抵抗と容量はそれを支配するに等しいパラメータに成り得ると思います。
(放電後、GM管の電圧は充電曲線を辿って上昇して行きますが、その途中にスタート電圧があり、動作(設定)電圧に回復する訳ですから、スタート電圧に到達するまでは、いわゆるデッドタイムとも考えられます。)

少ない知恵で憶測と妄想を語っておりますが、もう少しの間だけ辛抱してください。



20110607_004.jpg



●図①は筐体内にGM管を内装してしまう場合、楽に作れる接続方法です。
出力もほぼ分圧抵抗の公式により設定容易な正方向電圧のパルスが得られ、インアクティブ時はGND電位となりますのでロジックへ結ぶには都合が良い反面、GM管がGNDから浮いた位置(電位)になりますので金属ハウジングを使用するのであればGM管と絶縁しなければなりません。

●図②は電圧の高い部分で検出を行う回路ですね。
アクティブ時、GND方向へのパルスが得られます。
場合よっては R-detect を省略することもできますが、いすれにせよインアクティブ時にはdrive電圧そのものが現れてしまいます(要カップリングコンデンサ)。
この回路ですとGM管のカソードをGNDへ接地できますので、ハウジング+ケーブルを使いプローブ式にする場合に都合が良くなります。

●図③は②の回路をより実装的に表現できるよう努力しました。
ハウジング、シールド線のコールドをカソードと共にGNDへ落とせますが、必然的にシールド線の容量がGM管と並列に接続される事になります。

●図①~③を眺めて、それを簡略したものが図④と④-b です。
④-bではGM管を単なるコンデンサとして置き換えました。
GM管とアノード抵抗で積分回路を形成している事が判ります。

●図⑤は図③を書き換えたものとして見て下さい。
部品だけの回路図には記されていない、でっかいコンデンサが現れ、このコンデンサによって本来の積分時定数が大幅に変化することが判ります。=それが実装時の時定数となり機器の性能となるわけです。

単なる私の推測に過ぎませんが、VICTROEEN V-700 の場合、カウント可能CPMを確保(測定器としてのダイナミックレンジを確保)するため、アノード抵抗はプローブケーブルの容量分を補償した値として(さらにDC的な限界値も考慮して)1MΩが使われているとも考えられます。=アノード抵抗を高くできない。

どこまで意味のある事かは不明ですが、 6993GM管を使い V-700 と同等のガイガーカウンターを作るのであれば、ハウジング&ケーブルを使用した時と同じ波形(時定数)になるようアノード抵抗を増加させれば良く、GM管にとっても単純にアノード抵抗を回路図通り1MΩとするより格段に定格使用に近くなるはずです。



ここまで来るとGM管のパルス駆動という回路の基本が見えてきます。
あと一回だけ、妄想と屁理屈を述べさせて頂いてから、SBM-20のガイガーカウンター製作レポートをアップさせて頂きます。

加えて、PICを使わない低消費電力のCPMカウンターも作っています。部品の調達は通販のみ・総予算2千円内で収めたつもりですが、月末が来る前に、PICやArduino にも応用できることを検証してからアップします。
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コメント

素晴らしいです

以前コメントしたnnishiです。その後も記事を読んでおりました。
いつも丁寧に実験されていますね。今回の記事では、
ケーブルのインピーダンスが測定に影響しているのですね。
プローブ型が自作しにくく、安定しない理由はこれなのでしょうね。

私の方はGM管SI-22GをA5ファイルケースに納め、リチウム充電池で
バッテリー駆動するところまで進み、やっとホームページで公開しました。
回路図はまだですが、同胞は見るだけでわかるのではないかと思います。
バイアス抵抗には手元にあった5.1MΩを使いました。
今はβ線のシールド案を練っています。鉄の角パイプで3センチ角のものが
あるので、それでいいかなと思っています。

Arduinoのチップと8行2列表示のLCDを使い、LEDと圧電素子をカウント毎に
動作させ、USBでパソコンにデータを送っている時で、
消費電流は45mAくらいです。設計上手な人ならまだまだ下げられるでしょう。
バッテリーはスリムポーターという市販品の5.5V1000mAh携帯電話バッテリーを
組み込み、MacにUSB接続したときは充電しながらデータを読み出し、
外したときはスイッチを入れれば何時間か自立動作するような仕組みです。
このバッテリーは千石電商で515円と格安でしたが売り切れたようです。
容量が大きいので、消費電流の節約は途中で止めました。

小型で充電可能なバッテリーを載せるか、昇圧回路を工夫して電池の数を
減らす方向で電池スペースを削減する工作が多いように思われます。

では、また。

No title

Y.Uです。
着実にデータ収集と製作が進まれているようで、こちらも励みになります。
私のサイトで、パルス駆動(とくにChaney回路)の、管に対する寛容度が
高いという記述をしましたが、最近ウクライナの工場から未使用SBM-20
を100本輸入し、全数の特性を取ってみたのですが、いかんせんパルス
駆動の方が若干動作不安定が多い(2%)という結果になってしまいました。
詳しくは自サイトにレポートしますが、取り急ぎお伝えします。原因は
管そのものの固有静電容量のバラつきによるものらしく、直流バイアス
モードでは見られないものでした。管の不良といえばそれまでなのですが。
ちなみにCaney回路ではLEDがつきっぱなしになり、「リークあり」のような
反応になるようです。とりいそぎ。

Re: 素晴らしいです

nnishi OM、こんにちは。お久しぶりです。
OMのホームページ&SI-22G使用の素晴らしい自作装置群、拝見させて頂きました。
GM管の他にも表示や電池など、いろいろ新しいデバイスを採用されておりとても参考になります。

ここ数日急な仕事でブログの更新が滞っておりますが実は私もArduinoで遊んでいます。
震災前に何気なく寄った書店で購入した学研の付録を数日前に開封し、IDEをインストールしたばかりですので
正直なところArduino歴はまた20時間程度ですが、既存のライブラリのおかげで市販のデバイスを使う分には試作気分で作業を進められるのですね。
PICですとCでもアセンブラでも、最初の手順が同じ面倒ならそのままアセンブラでと始めてしまうのですが、Arduinoのスケッチは面倒な部分を飛び越して進められるので思い付きを忘れる前にポンと実験できるところが楽しいです。
工作好きな姪のためにロジックだけで動くCPMカウンタの回路を作ったのですが、Arduinoをさわってしまうと、もうロジックで作った回路が虚しくなります。

e-DISPも参考にさせていただきました。3版が発売になったらすぐに注文するつもりです。

↓nnishi OMのHPです。皆様もぜひご覧ください。

http://web.mac.com/nnishi/N.Nishis_Site/Welcome.html
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プロフィール

Dellbee

Author:Dellbee
デルビィです(少年時代にハマったアマチュア無線局のコールサインを捩りました)。
子供の頃から電子電気・機械物弄りが好きで、今も自分の時間が取れた時は何か弄っています。

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